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私の関心  - 若松 茂三

ブルバキ - wakamatsuさんのブログ

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2013
2月 4
(月)
13:16
ブルバキ
本文

最初のうちは数学界の反逆者と言われ、そして、次には数学界の権威と崇められた謎の数学者ニコラ・ブルバキは、最近その権威が薄れてきているようだ。

私の学生時代はちょうど権威と崇められていた頃だと思う。
当時ブルバキの「数学原論」シリーズの日本語訳が順次出版されていて、全三十数巻のうち十数巻を購入したように記憶している。
最初が集合論で、一、二冊おいて次が代数だったが、集合論3冊は何とか読んだが、代数の1冊目を形ばかり読んだ程度でそこで完全に挫折してしまった。
殆ど目を通していない本が何冊も残り、いつか読みこなそうと励みにしていたが、それが実現しないで数十年が過ぎてしまった。
励みというよりは自己の敗北を象徴する墓標のように見えてきて心の負担になるので、その読まずにいた本を昨年の暮れにまとめて処分した。

しかしながら、このブルバキ「数学原論」は、私にとって極めて影響力の強い本であった。
すべての数学理論が集合論を基礎に見事なまでに完璧に構築されるさまは私の数学観を一変させ、それに完全に魅了された。
さらに、数学とは現実をモデル化する学問であることを学び、集合論と、数学原論で取り扱われている手法が、社会科学分野をも含むかなり広範な分野で応用でき、かつ、強力であることを実感したものである。

先日webでたまたまブルバキとグロタンディークについて書いてある ページ を見つけた。
「ブルバキとグロタンディーク」という本が出版されているようだ。
この記事にも解説してあるとおり、ブルバキは以前は正体不明の謎の数学者だったが、後に若手数学者の秘密グループに付けられた名前であることが分かった。
グロタンディークもそのブルバキのメンバーであったが、ブルバキの主導者と意見が合わず脱退したようだ。
グロタンディークは、数学の基礎的な分野のひとつである圏論の大家である。
圏論を展開していく過程で、集合論を基礎としたブルバキの手法が行き詰まりを見せているそうだ。
グロタンディークは、集合論ではなく、圏論に基礎を置いて理論を展開し、集合論もその結果として導くようにする方法を提案したらしいが、拒否されたようだ。
天動説から地動説に変わるようなものだから、権威の既得権を失いたくない人達と、その理論が理解できない人達は抵抗しているようだ。

圏論という言葉にあまりなじみのない方も多いかと思うが、データベースに使われる検索用の言語SQL等がそのモデルとしてよく利用されており、対象間の関係を記述する理論だと考えれば大きな誤りはないと思う。
集合論では対象を定義し、その上で対象間の関係を定義していくが、圏論では、関係を先に定義するので、必ずしも対象が定義されていなくても関係の議論ができるというような違いがある。
具体的に人を想定して恋愛の議論をするのと、一般論として恋愛の議論をするのとの違いのようなものである。

今ブルバキは脱皮できないでいるように見える。
ブルバキのメンバーは今も若いが、その中でブルバキだけが二十数年も年寄りだという。
人は若返っても伝統ある組織は保守的にならざるを得ないものなのだろうか。

ブルバキの本が少なくなった書棚を見ていると、数学のひとつの時代が過ぎ去っていくことへの未練と、新しい未知の時代が始まろうとしていることへの期待とが入り混じって、私は気分が少し高揚しているようだ。
 

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