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奥が深い戸籍制度 - wakamatsuさんのブログ
wakamatsu さんのブログ
相続事始め
私の父が昨年の暮れに他界したため、それに伴い遺産相続、母の遺族年金、不動産登記などの手続きを行っている。
専門家に頼む方法もあるとは思ったが、そう複雑な事情もないので、自分でやってみることにした。
要点は、
戸籍上の斯く斯くの人物は間違いなく死亡したこと
例えば、私や母が、戸籍上のどの人物に対応し、確かにその人物の本人であること
該故人が死亡した時点で、生存している近親者は誰々であり、そのうち誰々が、続柄、その他の条件に叶う、該故人の遺族、または、相続人であるかということ
不動産の登記簿に記載の住所氏名は、確かに該故人のものであること
身分証明書と戸籍の紐付けにより、申請人が戸籍上の人物の本人であること
を立証することにある。
試行錯誤
戸籍謄本と、住民票、免許証などの身分証明書を見せれば、すべて済みそうな気がするが、そう簡単にはいかない。
一例をとると、
父の除籍謄本と私の戸籍謄本を用意しても、二人が親子だということすら証明できない。
私の戸籍謄本に記載されている父が、その除籍謄本に出てくる人物と同姓同名であることまでしか分からないのである。
なぜなら、結婚して除籍された子の記録が、最新の除籍謄本には記載されない場合が多いからである。
私の戸籍謄本をとれば私の父の名前や私の本籍は分かるが、私は結婚した時に父の本籍とは異なるところに本籍を設けたため、該故人との関係はこれだけでは立証できない。
そうすると、改製原戸籍(当該戸籍の元の戸籍)をとる必要が出てくる。
改製原戸籍を揃えても、該故人の子に私と同姓同名の人物がいたことまではわかるが、運転免許証に記載された住所に住んでいる私がその人物本人であるということを立証したことにはならないのである。
登記簿の住所
不動産の登記簿に記載されている所有者の住所が、父の以前の居住地であったので、この不動産が父のものであることを証明するため、住民票の除票を請求したところ、該当者なしで返ってきてしまった。
調べてみると、住民票の除票の保存期間は5年と定められている。
すでに除票は廃棄されていて、この方法では証明できないことが分かった。
そこで当時の本籍地の自治体に戸籍謄本の附票を請求した。
ところが、戸籍謄本の附票も廃棄されているという。
これは、住民基本台帳法の施行により、5年で廃棄することになったのだそうだ。
個人情報をむやみに他人に知らせないようにする趣旨も分かるし、重要でない事務は簡素化したいのも分かる。
しかし、今回のケースのように、本人や遺族が正当な目的のために過去の自己の居住地を証明しようとした時に、証明する公的手段が断たれているというのは如何なものかと思う。
色々苦心の末、固定資産台帳の納税義務者の住所地により、住民票の除票のひとつと当該不動産の地番の紐付けができることがわかったので、近くの法務局へ出向いてその有効性を尋ねた。
ところが、これでは私の父がその土地の納税義務者であることが分かるだけで、登記に記載の住所の所有者とたとえ名前が同じでも同一人とは断定できないとの答えだった。
所有者でなくてどうして納税義務者になるのかと反論はしてみたものの相手にして貰えなかった。
所有者でない納税義務者も、場合によってはありうるのかもしれない。
私が特別珍しいことをしようとしているのではない。
このようなありふれた相続手続きが現在の戸籍制度で支えられないのでは、何のために戸籍制度はあるのかと思う。
廃棄までの期間を短縮する法の改正をする時に、相続に支障が出そうかどうかという、その程度のことも検討しないのだろうか。
手続の背景
銀行などの金融機関では、被相続人の結婚から死亡までの連続した戸籍謄本が要求されることが多い。
年金関係では、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が要求される。
相続人間の紛争に巻き込まれることを危惧しての防衛的な対応らしい。
そのため、予め相続人となりうる人たちの母集団を把握しておきたいということのようだ。
直系卑属の相続人がいる場合は、相続人となりうるのは、配偶者、子、孫等となるから、原則結婚後(場合により、養子、非嫡出子などを考慮する必要があるが)が把握できればよいのだろうが、一般的には、そうでない場合も想定して、年金の手続き等には、より慎重に親兄弟までも調査対象に含められているのだと思われる。
全相続人の手続きをすべて私がすることにしたので、結果的に、
父については、除籍謄本7種計21通、附票1通、住民票除票3通を、
相続人については、戸籍謄本及び住民票を各3通ずつ相続人の数だけ
準備することになった。
その他、印鑑証明書や死亡診断書、課税証明書など各種の証明書が必要であったことは勿論であるが、これら戸籍以外の証明書についてはここでは触れない。
金融機関と法務局は、請求すると原本を還付して貰えるのだが、年金関係は還付されないため重複して用意する必要があるのである。
窓口で手続きする場合は、証明書類の還付を当日受けられるが、郵送の手続きの場合は、還付に時間がかかるので、証明書類の有効期間の制約の中で手続きを完了させねばならず、手続きを並行して進めたため、実際にはこれよりも多くの証明書類を揃えることとなった。
戸籍制度の変遷
この過程で、戸籍法の変遷とその意味などを知ることができた。
戦前の大家族制、家父長制、家督相続、隠居、分家などに始まり、2世代家族の新戸籍法への移行、コンピュータ化による改製などの制度の特徴とその功罪などを知ることができた。
近年差別解消や、個人情報保護の観点からか、情報のアクセスが煩雑になったことも実感した。
信頼関係が確かな兄弟であっても、同一世帯でなければ、委任状なしには戸籍謄本がとれないのは、もどかしい感じがした。
本籍地が遠隔地である私などの場合、私の本籍地に近いところに住んでいる近親者に手続きをして貰おうとする場合などに特にそう感じる。
信頼関係など第3者には分からないのだから仕方がないと言われれば確かにその通りではある。
それにしては、同一世帯ならよいというのもおかしな話ではある。
昭和三十二年法務省令第二十七号の施行により昭和30年代に行われた改製では、新戸籍法のもとにあらたに戸籍を編製することができるとされており、編製の際に転籍、新戸籍編製の規定が準用されると定められている。
この規定の中で、転記すべき情報が定められているが、一部の情報はそれから除外されている。
そのため、抹消された情報が以前は見え消しになっていたのが、改製により見えなくされてしまったため、いくつも遡って除籍謄本を取らないと目的の情報に辿りつけない場合も頻発するのである。
転籍や新戸籍編製に伴い除籍を経て行くうちに、保存される家族関係の情報が希薄になっていくと思われる。
今回の相続事務は、平成改製原戸籍や昭和改製原戸籍等の助けを借りて処理しているが、これらの戸籍は、基本的に新戸籍法の経過措置の性格を帯びたものと理解される。
仮にこれらの経過措置を無くしても、新戸籍法の枠組みの中だけで相続などの事務は今後とも円滑に処理できるのであろうか。
昭和改製原戸籍の保存期間が新法制定時の50年から平成16年に80年に、平成22年に150年に順次延長されているが、これはこの問題を先送りしようとすることを意味しているのであろうか。
簡単そうに見える戸籍制度のなかなか奥深いことを実感するこの頃である。
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